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職場における健康管理「第15回」
岐阜大学医学部産業衛生学分野助教授 井奈波 良一
累積疲労について(その1)
本連載第11回では過重労働による健康障害の原因として、疲労の蓄積が大きく関与していることを述べた。そこで今回と次回で疲労、特に累積疲労について考えることにする。今回は、その症状について述べる。
エビス心療内科堀史朗院長は、数年から十数年の残業や土日出勤、週末出張などの激しい労働の疲労が累積して起こる病気を「累積疲労」と命名し、ウイルスや膠原病が原因の「慢性疲労症候群」と区別している。
「累積疲労」の初期・中期症状
「健康人の疲労」は、ひどく疲れたと思っても、一晩たっぷり熟睡すれば消える。しかし、一晩どころか、数日続けて熟睡しても疲れがとれなければ、すでに累積疲労の初期に入っている。累積疲労の初期には睡眠は正常にとれる。しかし、中期や末期には睡眠の異常がみられる。
この他の初期の症状として(1)些細なことですぐに怒るようになり、家族や部下のグチを聞いてあげられなくなる。(2)単純ミス、ポカミス、勘違い、度忘れが増えてくる。(3)夕方になると、独り言が増えてくる。
中期の特徴を一言でいうと、「過剰睡眠期」である。寝ても寝ても眠い、会議になるとすぐ居眠りをしてしまう、電車に乗ると知らないうちに寝ていて乗り越してしまう、土日は出かけるより寝ていたいとなる。中期には、この他に身体症状が次々に現れてくる。(1)頭痛、首や肩や背中のこり、耳鳴り。(2)心臓の締め付け、動悸、呼吸の苦しさ、めまい。(3)目がしょぼしょぼ、目の奥が痛い、風邪もひいてないのに咳や痰がでる。(4)音過敏症、臭い過敏症。(5)手足のしびれ、目元や口元の痙攣。(6)37.5度以下の微熱の継続。これらの症状が、はじめは1つしかなかったが、2つ3つ4つと次第に増えてくる。総合病院や大学病院で徹底的な治療を受けても異常はみられない。すると上司や家族が「仮病」、「怠け病」、「贅沢病」を疑うようになる。
「累積疲労」の末期症状
末期の累積疲労では、疲れれば眠れるという常識が全く通用しない。末期の特徴を一言でいうと「不眠期」である。末期になると以下のような特徴的な状態像が出現する。(1)病気で苦しんでいるにもかかわらず、病院から見放され、家族や上司から「仮病」、「怠け者」扱いされて、誰もわかってくれないという絶望感に襲われる。ひどいと自殺願望を抱くこともある。(2)目の下に隈ができ、顔の肌は脂ぎってくる。手の指がしわしわになって、突然、額から冷や汗が出ることがある。(3)決して悲しいわけではないのに、突然涙があふれて止まらなくなる。(4)夜中に怖い夢で目が覚めるようになる。(5)酒を飲んでいないのに、まっすぐ歩けなくなり、フラフラして千鳥足になる。(6)長時間立っていられなくなり、座るとしばらく立ち上がれなくなる。(7)電車や飛行機に乗れなくなる。このような症状が出た時、累積疲労に気づく事が最も多い。不幸にしてこの時点で「累積疲労」の存在が分からないと、多くは次のステップ「仮面うつ病」に移行するが、運が悪いと「過労死」してしまう。

参考文献 堀史朗:「累積疲労」の全体像とその予防.
労働の科学 57(5):277-280, 2002.
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