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広報誌 ネット&ライン No.103 2004 冬号
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電子自治体で市町村が変わる
―ITを活かす行政経営―
摂南大学経営情報学部長 島田 達巳



1 弾みがついた電子政府
 電子自治体とは、「住民サービスの向上や自治体業務の効率化を図るために、ワンストップやノンストップを指向した電子申請・電子保存・電子伝達・電子情報公開・電子投票・電子入札などプロセスの電子化はもとより、ITを使って政策立案のための意思決定支援や自治体・住民間などとの協働が行われるネットワーク化された自治体のこと」をいう。したがって、電子自治体は、自治体の情報化によって実現されるものでe-自治体、デジタル自治体、インターネット自治体とも呼ばれる。
 政府は、日本のIT国家づくりについて先進諸国との遅れを自ら認めた上で2000年にe-Japan戦略や電子政府構想を打ち出した。これまで政府にはITについて総合的な取組がなかったことから、国家戦略として打ち出され、そのための予算も重点投資されたことで電子政府・電子自治体の構築に大きな弾みがついた。
 既に本誌の「ITポータルサイト」欄でも一部紹介されてきたように、住民基本台帳ネットワークシステム、総合行政ネットワーク、組織認証基盤、公的個人認証サービスなどが電子政府・電子自治体の基盤として2003年度までに動き出すとともに、自治体については電子申請システムの整備、地方税の電子申告、電子調達、電子投票などが順次、運用が始まろうとしている。一方、これらとは別に、官民連携で全国的に都道府県ごとに各市町村の住民サービス業務と内部管理業務を民間にアウトソーシングする共同ITアウトソーシング構想が総務省主導の基に推進されている。計画では、住民サービス業務は2003年、内部管理業務は2006年に試行することを目途として、準備が進んでいる。

2 ITがもたらす市町村への影響
 このような国主導の電子政府・自治体構想とは別に、市町村においては、これまで国に先駆けて改革を実施した例は少なくない。古くは、個人情報保護や情報公開制度の実施があり、最近では事務事業の行政評価制度や電子入札制度の実施がある。岐阜県で1970年から始まった財団法人岐阜県行政情報センター(現、財団法人岐阜県市町村行政情報センター)による共同システム開発・運用及び支援についても、前述の国の共同アウトソーシングと基本的には同じ考えのもとに始められたもので、先駆的な事業であると評価される。
 電子自治体についてもまだごく少数ではあるが、全国的にみると、2000年になって国が主導する以前から自主財源で推進し、構築している市町村も現れている。そこでは、ITを行革の有力な手段と見なして行政の変革を図る一方で街づくりにも積極的である。これらの市町村が全国の市町村の牽引役を果たし、各市町村が創意に満ちた独自のIT活用で日本の再生に大きな役割を果たすことが期待される。
 インターネットによるIT革命は、企業、政府、NPO、家庭に急速に広がり、組織や仕事の仕方はもとより、ライフ・スタイルにも影響を与えている。多くの市町村職場においても、今日では、パソコンの一人1台体制が急速に広まり、各パソコンからインターネットにアクセスできる環境が整いつつある。
 ITは、活用の仕方によっては、顧客である住民の満足度を満たすためにサービスの向上とコストの削減の両方を同時に図ることができる。ITによる電子自治体構築は、第1には住民のためのものであるが、第2には、市町村で働く人々のためのものである。各市町村が自らの創意と工夫で特色のあるITの活用を図るためには、何よりも市町村職員のエンパワメントが重要である。職員が日々喜びを持って仕事ができること、すなわちジョイフル・ワーク(joyful work)ができる環境づくりこそ大切である。それなくして、住民満足のあるサービスはあり得ないからである。住民満足を強調するあまり、市町村職員の満足をなおざりにしてはならない。当然のことながら、市町村職員は住民でもある。ITを用いて増大する行政需要をこなし、住民やNPOなどと連携をしながら地域活性化を図るには、職員はそのネットワークの要となる必要がある。
 ITが普及すると、仕事のスタイルはもとより、行政の組織風土そのものも影響を受けて変化する可能性を持つ。以下、行政マネジメントとITの関わりを述べた上で、組織風土への影響について取り上げる。なお、ここではパソコンや携帯電話を使っての電子メール、ML(メーリングリスト)、電子掲示板、電子会議、グループウェアなどを総称して電子コミュニケーションと呼ぶ。

3 マネジメント・スタイルは変わるか
 行政組織では、日々マネジメントとしての問題解決が行われている。そのような意味では、行政組織は問題解決集団であるともいえる。問題解決活動は、図1のように5つの要素で構成され、意思決定プロセスは5つの構成要素のうち、はじめの3要素を意味する。また、問題解決活動とITの関わりは、図2のように表される。

図1 問題解決活動の構成要素
問題解決活動の構成要素

図2 問題解決活動とIT
問題解決活動とIT

 人々の意思決定は、いつも合理的に行われるとは限らない。意思決定者は、問題や代替案について完全な情報を持つことはまれであり、代替案のもたらす結果についても未知である場合が多い。とことん、情報収集を図ろうとすれば、決定のタイミングを失してしまうし、タイミングを重視すれば不十分な情報のもとで決定しなければならないというジレンマに遭遇する。要するに、人々が意思決定するに際しては、多くの決定しなければならない問題を抱えている上に、各決定に際しては複数の基準があり、制限された知識や時間のもとで決定を行う。
 このような制限の下での意思決定について、ITの役割は決定プロセスをより合理的なものにする。すなわち、問題についてのより多くの情報を得たり、より多くの代替案を開発したり、選択の基準をより念入りに考慮したり、リスクを減らしたり、スピードを上げたり、成果についての知識をより深めたりする。そして、電子コミュニケーションは、問題解決の全プロセスをとおしてコミュニケーションを改善するのに役立つ。例えば、意思決定者と問題解決についての知識を持つ者との間のコミュニケーションを円滑にするのに使われ、特にグループでの意思決定に重要な意味を持つ。
 問題についての事前準備のための情報収集には、住民情報や税務などのトランザクション処理結果やデータベースからの情報検索などが役立つが、データベースからのオンライン検索はモニタリングにも使うことができる。また、代替案の探索には、アイデアの取りまとめ手法やエキスパートシステムによる相談・政策支援システムを使うこともできる。代替案の選択には、表計算プログラム、統計パッケージ及び資金管理プログラムを用いることができる。また、解決策の実行には、プロジェクト・マネジメントプログラムが役立つ。
 次に、意思決定プロセスでの現場では、図2で、左から右の段階に進むとは限らない。しばしば、後の段階(右)から前(左)に進む。意思決定者は、代替案を自由に識別し、それらを合理的に選択する代りに個人目標や組織目標を反映した意思決定が受け入れ可能とみられる。又は、少数の成果をまず識別するところから始めて、これらの結果の1つに導くように決定プロセスを意識しないで強制する場合がある。
 このように、結果が強制されるような意思決定について、ITは意思決定者に自分たちはプロセスを強制しているのではないか、あるいはゆがめていないか気付かせる役割を持つ。また、ITは決定プロセスをうまく操作するために、表計算などにより大量の支援データを用いることで否定的なデータが目立たないようにしたり、グラフの用い方によって、データの真の意味を失わせ、人を欺くために使われることもあるので注意が必要である。

4 組織風土は変わるか
 これまでの市町村の組織風土を抽出すると、次の3点を指摘できる。
 1. 安全指向(vs.リスク・テーキング指向)
 2. 縦割指向(vs.横割指向)
 3. 内部指向(vs.外部指向)

 安全指向は、失敗をしないという行動が第1となり、リスク・テーキングな行動が採られ難いことである。このことは、市町村の減点主義と短期ローテーションの人事制度が影響している。トップやミドルの経営管理職が真にITの威力を知るには、自ら仕事に電子メールやインターネットを使うことが求められる。そのようなトップの背中を見て、ミドルも動かざるを得なくなる。市町村では、一人1台のPCが装備されていても、なおミドルで使わない人がかなりいる。また、使ってもROM(リード・オンリ・メンバー)を決め込み、電子メールを発信しないミドルもいる。記録が残り言質を取られることを恐れるためである。ここにも安全指向が根強く残っている。
 縦割指向については、情報自体は神経のように組織を縦断する。もちろん、縦割組織で完結するものもあるが、情報は上下左右に流れることが必要である。縦割組織に沿って組まれた情報システムによると、ある部門で出力されたデータを再び手作業で入力するという無駄な方法も行われる。データベースはできるだけ共有化し、情報の流れに沿ったシームレスな(継ぎ目のない)システム作りが必要で、縦割組織の都合で分断すべきでない。
 内部指向については、これまでの情報システムの適用業務自体が内部指向が多く、対住民などの外部指向のIT化は遅れていた。また、市町村職員の交流は同質的な公務員同士が多く、異質な民間、NPO、学会などの分野とは少なく、外部との垣根は高かった。この内部指向は、公務員が民間など外部と交流することで業者との癒着を懸念することと関わるが、制度的に情報公開を活発化すれば、そのような懸念も少なくなる筈である。外部との活発な人材交流は、インターネット時代での秒進分歩で発展するIT化にダイナミズムをもたらすであろう。
 それでは、安全指向→リスク・テーキング指向、縦割指向→横割指向、内部指向→外部指向へとどう変えるかということになる。組織風土を改革するプロセスについては、意図的に改革する主要な方法として3つのステップがあり、第1ステップは改革のリーダとしてのトップによる「トップダウン」、続いて第2ステップは選ばれた部門、グループあるいはミドルによる実験的な形での改革で、それが成功すれば、この経験が他の部門に伝わる「実験の普及」、そして第3ステップはグループ、各人による「草の根運動」である。
 まず、第1ステップは、組織の環境が危機に陥り、リーダシップのあるトップが出現したときに変化の可能性が高い。財政危機に陥り、リーダシップのある首長が登場した場合が正にこれに当てはまろう。首長による「極めて挑戦的な目標」、「トップによる現状否定」、「人的資源の傾斜的再配分」などのシンボリックな方針表明、エピソードの数々、積極的な行動は組織に戦略的ゆさぶりをかけることになる。
 第2ステップは、これに呼応しての選ばれた部門、グループなどによる実験的な改革と普及である。それには、電子掲示板や電子会議などの電子コミュニケーション手段を用いての住民との双方向の協働による問題解決が有力である。一部のミドルが従来の発想や行動様式から突出し、住民の中に飛び込み、住民の目線で対話し、情報を共有し、協働関係を創り、改革の先頭を走ることで改革の実験が進む。
 すなわち、電子コミュニケーションによって個人がバラバラに持つ知識や経験を共有し、新たな知恵を創り出すことで業務の質を向上させるとともに、仕事そのものをより創造的なものへと変質させることができる。従来の業務改革は、ピラミッド型の組織構造を通してなされた提案が数多くの階層を経て調整され、権限を持つ部署が決定し、再び数多くの階層を経て伝えられ、実施されるというものであった。こうしたやり方は、情報伝達と内部調整に多大な時間とエネルギーを要し、現実の問題解決に力を発揮できない。
 第3のステップは、グループや各人による草の根運動である。トップダウンだけでは、組織風土は変わらない。職員の意識改革を通じて組織をどう再生するかに主眼がおかれなければならない。住民に信頼される市町村を築くには、職員一人ひとりが経営者の視点を持ち、「スピード感覚」、「コスト意識」及び「チャレンジ精神」を発揮しながら果敢に実行する必要がある。また、草の根運動としての電子コミュニケーションは、大規模自治体にも威力を発揮する。従来は規模が大きいために縦割指向や内部指向が支配的であったが、時空間を超えてのコミュニケーション技術を用いることで、横割指向や外部指向への変化も可能である。
 電子コミュニケーションを全庁的に実施しているところでは、組織が小さくなったようであるという実感が生まれる。

4 地域コミュニティは変わるか
 同一市町村職員間のほかに、異なる市町村職員間、住民・市町村間及び住民・地域間における新たなコミュニティも増えるとみられる。地域コミュニティにおけるコミュニケーションは、これまで地理的・時間的制約に縛られていた。職住分離の多くの住民は、この制約から、地域コミュニティや行政に参加するのが難しい環境にあった。しかし、インターネットやイントラネットなどを使ったEメール、メーリングリスト、電子掲示板などを駆使することで、この制約は一挙に取り払われた。そして、今、地域コミュニティでは創意を活かしたメンバーによる情報共有による改善案の作成や住民の政策形成過程への参加など様々な試行、実践が始まっている。これらは、住民参加型まちづくりの情報交流システムを築き、希薄になりつつある地域コミュニティをITを使って再生し、良質のコミュニティを生み、住民のつながりを深めている点では共通している。
 現在、市町村の大部分は、ホームページを設定しているが、一方向の情報提供のみで一部の市町村が提供された情報などについて住民からのメールを受ける方法を採っており、住民参加型はまだ少数に過ぎない。図3は、行政と住民との協働(コラボレーション)関係の発展段階を示している。この図の第4段階に達している市町村はまだ少ない。
 また、仮に住民参加型を採ってメーリングリストや電子掲示板を設けたとしても巧くいくとは限らない。ごく少数者が発言を独り占めしたり、休眠状態になっている場合が少なくない。
 その成功には、IT装備の環境のほかに、公式・非公式を問わずネットワーク・リーダ的な役割を果たす人の存在が必要である。それは、単独である必要はない。その役割は、個々の発言にこまめに返事をしたり、「相の手」を打ったり、テーマに沿った発言を促す、そして、批判や中傷に対しては、目的や主旨を説明し、建設的な発言を促すことである。また、非公式組織としてのコミュニティにおけるネットワーク・リーダに相応しい条件は、次のとおりである。(1)自らの地域や市町村に愛情と誇りを持ち、明るい未来構想を描けること。(2)リスクテーキングできる勇気と率先実行できる行動力があること。(3)内外に人脈があり、創造性が豊かであること。(4)協調性とともに包容力がありプラス指向の考え方をすること。(5)人の観方が短所よりも長所に重きをおくネアカ人間であること。もちろん、これら全ての要件を満たすことは、理想的で現実には殆どいない。条件を単独で満たす必要はなく、複数の人で補い合うことでよい。

図3 Webサイトでのコミュニケーション
〜 協働関係の発展段階 〜

Webサイトでのコミュニケーション 〜 協働関係の発展段階 〜
参考文献:島田達巳(2001)『情報技術を活かす自治体戦略』ぎょうせい