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広報誌 ネット&ライン No.90 2000 秋号
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岐阜大学医学部衛生学教室助教授
井奈波 良一

 最近、わが国では、高血圧、糖尿病などの持病を持つ労働者が増えている。これらの疾患は、悪化すると脳に血液を供給する血管から出血したり、血液の流れが悪くなることなどにより、脳の働きに障害が起きる脳血管疾患、心筋(心臓の筋肉)に酸素や栄養を供給する血管(冠動脈)の血液の流れが悪くなることにより、一時的に心臓の機能に異常が起こったり、心筋の一部が死んで不可逆的な心機能障害が起きる虚血性心疾患などに繋がりかねない。また、最近の定期健康診断の結果をみてみると、血圧、血中脂質検査、心電図検査などのいわゆる生活習慣病に関連する項目の有所見率が高く、労働者の4割近くが何らの所見を持っているという状況である。
 このような疾患の増加は、人口構成の高齢化、生活環境の変化、食生活の変化などの原因によることが大きいといわれている。これらの疾患を悪化させないためには、労働者自身が積極的に自らの健康管理に努めることが重要であるとともに、1日の3分の1以上を過ごす職場における健康管理も重要である。各事業場においては、健康診断の実施の徹底や労働者の健康保持増進などの健康対策に積極的に取り組むことが望まれている。
 今回と次回は、脳血管疾患および虚血性心疾患の予防について述べる。
■脳血管疾患と虚血性心疾患の種類
 脳血管疾患を大きく分けると、頭部の血管が何らかの原因によって破裂し、出血することによる「脳内出血(脳の奥に入っている動脈の壁がもろくなり、高い血圧に耐えきれず破裂して、脳組織内に出血が起こることであり、流出した血液の塊が大きくなり、周囲の脳組織を圧迫して、様々な症状を起こす)」、「くも膜下出血(何らかの原因で生じた脳動脈瘤が破裂して、脳の表面とくも膜との間に拡がるように出血する疾患)」などの疾患と、血管が詰まって脳の血流が減少または止まることになる「脳梗塞(症状は障害を受けている場所によって多彩)」、「一過性脳虚血発作(一時的に、上下肢の麻痺や知覚障害などが現れるが、脳梗塞に至らず、短時間(24時間以内)に症状が消失する状態で、一旦、症状は完全になくなるが、血栓などができ、後に脳梗塞などを起こしやすい状態)」などの疾患の二種類がある。
 虚血性心疾患には、冠動脈の異常によって一時的(通常、数分以内)な血流の低下により胸痛発作を起こす「狭心症」と、冠動脈が詰まり心筋が死んでしまう「心筋梗塞」がある。狭心痛というと痛みだと思われがちだが、心臓の痛みは漠然として表現しにくい場合が多い。狭心症の痛みに一番近いのは、「締め付けられる」感じ、「抑えられる」感じである。狭心痛を感じる場所は、心臓が胸の左側にあるので、そこが痛むと思われがちだが、胸の左側に狭心痛を感じる者は3割以下である。実際に最も多い場所は胸の中央に向かって「締め付けられる感じ」が6割くらい、他に「のどが締め付けられる」、「下あごがギュッと押さえつけられる」、「左肩から上腕にかけてグーッと重だるくなる」者が1割以上にみられる。
■脳血管疾患と虚血性心疾患の危険因子
 脳血管疾患及び虚血性心疾患の発症には、遺伝、身体状況、生活習慣、環境などの要因が複雑に関係している。これらのうち生活習慣については改善することが可能であり、それによって疾患を予防することや軽くすることができる。
 脳血管疾患及び虚血性心疾患は、動脈硬化などの血管の病変が共通の原因となって多く起こっている。動脈硬化や動脈瘤は、短い期間で発生するものではなく、長い期間をかけて徐々に進む。その進行には、遺伝の他、生活習慣や環境要因が関係しているといわれている。このような疾患の発生や進行を促進したり、増強するような様々な要因は危険因子と呼ばれている。
 脳血管疾患及び虚血性心疾患が起こるメカニズムは十分明らかにされているわけではなく、動脈硬化がかなり進んだ状態でも必ず起こるわけではない。
 寒冷、興奮、緊張などにより血圧が急に上がること、血液が固まりやすくなること、高脂血症などが発症に関係している。また、ジョギング中の急死のように、心臓の負担が増えるにもかかわらず、それに見合う心筋への血液の供給がなされないことによるバランスの乱れが急死の要因になることもある。
 
 以下、次回に続く。